釣り漫画紹介「釣り屋ナガレ」【ホームレス中学生の釣り旅】

書籍情報

釣り屋ナガレ 1巻「表紙」
1巻 表紙 (Amazon
タイトル釣り屋ナガレ
作者竹下けんじろう先生(Twitter
掲載誌週刊少年チャンピオン(秋田書店)
発売日2009年3月6日~2011年3月8日
単行本1~11巻(完結済み)
魚種クロダイ・アジ・アオリイカ・ハゼ・アナゴ・スズキ・アユ・ヒラメ・サバ・カツオ・マグロ・シロギス・コイ・ナマズ・トラウト・メバル・カワハギ・ワカサギ・メジナ・イシダイ・アイゴ・マダイ、など

釣り屋ナガレとは

釣り屋ナガレは、東は千葉県・静岡県、西は徳島県・高知県など日本全国の海・川・湖をモデルにした釣り漫画。「釣り屋」を自称するホームレス中学生ナガレが、日本各地を釣りで旅費を稼ぎながら旅します。今回は、釣り屋ナガレの「あらすじ」「登場人物」「4つの魅力」をご紹介させていただきます。

釣り屋ナガレのあらすじ

財閥の御令嬢がホームレス中学生に弟子入り!?

豪徳寺槙江(ごうとくじ まきえ)は、12の会社を傘下に収める豪徳寺グループの令嬢。「死ぬ前に釣りたてのアオリイカを食べたい」という祖父・豪徳寺潮(ごうとくじ うしお)の願いを叶えるため、専属メイドの砂原(すなはら)と共に海辺に訪れていた。

釣り屋ナガレ 1巻 45ページ「釣り屋の旗を見つける砂原と槙江」
釣り屋の旗を見つける砂原と槙江(出典:釣り屋ナガレ 1巻 45ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)

槙江は自分に釣りを教えてくれる人を探していたところ、港の堤防で「釣り屋」を自称する少年・流氷馬(ながれ ひょうま・通称ナガレ)と出会う。見事な手つきでアジやアオリイカを仕留めていく様子を目にした槙江は、ナガレに弟子入りしたいと願い出る。釣りは全く未経験の槙江だったが、祖父の遺産目当ての親類に負けないため、自分が先にアオリイカを釣って祖父に届けたいという強い想いを抱いていた。事情を聴いたナガレは、自身の生活費を報酬として受け取ることを条件に、槙江にアオリイカを釣らせることを約束する。

釣り屋ナガレ 1巻 74ページ「アオリイカを釣ってみせたナガレ」
アオリイカを釣ってみせたナガレ(出典:釣り屋ナガレ 1巻 74ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)

登場人物

流 氷馬(ながれ ひょうま)

釣り屋ナガレ 1巻 61ページ「アオリイカを掛けるナガレ」
アオリイカを掛けるナガレ(出典:釣り屋ナガレ 1巻 61ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)

中学3年生。全国を放浪しながら釣りを稼業に生計を立てている。釣りは知識・技術ともに超一流。身長151cmと小柄だが、手釣りで黒鯛を釣り上げるほど柔軟な身体と、大型クーラーボックスを運べるほど強い足腰を持っている。トレードマークはカウボーイハットとオーバーオール。実は孤児だが、訳あって捜索願は出されていない。物語開始時は主に陸からの海釣りだけをしていたが、旅の最中に川釣り・船釣り・管理釣り場など多くの釣りを経験していくことになる。

豪徳寺 槙江(ごうとくじ まきえ)

釣り屋ナガレ 1巻 156ページ「エギを投げる槙江」
エギを投げる槙江(出典:釣り屋ナガレ 1巻 156ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)

高校1年生。豪徳寺財閥の御令嬢で、一見誰もが羨むような生活をしているが、複雑な家庭の事情を抱えており気苦労が絶えない。真面目でしっかり者だが、自己中心的な親類には怒りを露わにする芯の強さも持っている。身長は153cmと小柄で、小学生に間違えられることも。祖父のためにアオリイカ釣りをしたことがきっかけで、自分でも釣りをするようになる。能天気だが明るく優しいナガレのことが少し気になり始めている。

砂原 静(すなはら しず)

釣り屋ナガレ 1巻 64ページ「あわてて海に飛び込む砂原」
あわてて海に飛び込む砂原(出典:釣り屋ナガレ 1巻 64ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)

槙江専属のメイド(使用人)。身長170cmと背が高く、槙江のボディーガードおよび姉のような存在。乗り物が好きで、大型自動車免許から小型船舶免許まで所持している。普段は冷静な人物だが、槙江のこととなると心配し過ぎて早とちりな行動をすることもある。

豪徳寺 潮(ごうとくじ うしお)

釣り屋ナガレ 2巻 49ページ「爆笑する潮会長」
爆笑する潮会長(出典:釣り屋ナガレ 2巻 49ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)

豪徳寺グループの会長。海運・造船・金融・ホテル経営等、12社を傘下に収める豪徳寺グループを一代で築きあげた。俗に言う成金だが、嫌味が無く豪快で懐の広い性格。週に一度しか目覚めず危篤という設定だったが、いつの間にか歩くことができるほど元気になった。釣りが大好き。

砂原 トメ(すなはら とめ)

釣り屋ナガレ 1巻 42ページ「潮会長の優秀な秘書である砂原さん」
潮会長の優秀な秘書である砂原さん(出典:釣り屋ナガレ 1巻 42ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)

豪徳寺潮の秘書で、砂原静の祖母。穏やかで誠実な性格。週に1度しか目覚めない(はずだったがいつの間にか何事も無かったかのように元気になっている)潮会長のサポートをしている。

豪徳寺 波夫(ごうとくじ なみお)

釣り屋ナガレ 1巻 134ページ「釣りのコーチを呼ぶ波夫」
釣りのコーチを呼ぶ波夫(出典:釣り屋ナガレ 1巻 134ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)

豪徳寺潮の長男で、豪徳寺(GT)ファイナンスの社長。丸っこい見た目がタコに似ており、釣りでもなにかとタコに縁がある。父である潮の遺産を狙っており、とある理由で槙江のことを強く敵視している。

広岡 進(ひろおか すすむ)

釣り屋ナガレ 1巻 147ページ「波夫を指導中の広岡」
波夫を指導中の広岡(出典:釣り屋ナガレ 1巻 147ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)

東都エージェンシー営業部に所属するサラリーマン。釣りが趣味。傲慢な取引先の社長の接待釣りで失敗しかけてクビになりそうだったところを、ナガレに救われた経験がある。その時の実績(本当はナガレが釣った)のせいで、今度は波夫のアオリイカ釣りのコーチ役に任命される。

釣り屋ナガレの魅力

魅力その1:少年漫画らしい王道展開!

釣り屋ナガレ 1巻 130ページ「遺産狙いの波夫に宣戦布告する槙江」
遺産狙いの波夫に宣戦布告する槙江(出典:釣り屋ナガレ 1巻 130ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)

釣り屋ナガレは週刊少年チャンピオンで連載していたため、基本的に王道の展開の漫画です。「釣り漫画なのになぜかバトル(リアルバトルに発展する場合もあり)」「ほのかな恋愛要素(主人公は鈍感でヒロインや他の女性キャラが焦る)」などなど。週刊の少年漫画にありがちなツッコミどころがあるのもまた魅力で、「潮会長元気になってる!?」「お前ゲスだったのに心変わり早!」などと考えつつも、作品の勢いに圧倒されながら読み進めることができます。

魅力その2:魚の躍動感!

釣り屋ナガレ 1巻 24~25ページ「水面に姿を現した50cm級の黒鯛」
水面に姿を現した50cm級の黒鯛(出典:釣り屋ナガレ 1巻 24~25ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)

釣り屋ナガレの「魚」の描写は釣り漫画の中でもトップクラス。細かく描き込まれたウロコや、魚が体を振り水しぶきが飛ぶ瞬間を切り取った絵からは、素晴らしい生命力・躍動感が伝わってきます。魚の泳ぎ方によって表現方法も変えており、「カツオは弾丸」「マグロはロケット」と表現し、ページの端から端まで一直線に走る姿を描いたシーンは迫力満点。執筆にあたり、実際に作者の竹下先生がカツオ釣りの取材に行っているため、地味過ぎず大げさすぎずのバランスがちょうど良く見事です。

釣り屋ナガレ 4巻 13ページ「ロケットのようなマグロ」
ロケットのようなマグロ(出典:釣り屋ナガレ 1巻 24~25ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)

竹下先生は、取材でカツオを釣った際に、初めて「魚が怖い」と感じたそうで、そのやり取りを「魚との戦い」と表現しています。実際にカツオなどの「走る」青物の引きを経験した方なら分かると思いますが、本当に戦いという表現がピッタリだと思います。釣り屋ナガレにはそういった作者ご自身の釣りの経験がふんだんに盛り込まれているため、小物から大物まで魚の描写にリアリティがあり魅力的です。

魅力その3:釣りたての魚介を食べる!

釣り屋ナガレ 2巻 49ページ「釣りたての魚介」
釣りたての魚介(出典:釣り屋ナガレ 2巻 49ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)

釣り屋ナガレでは、釣りたての魚・イカ・タコ・エビなどの魚介類を味わいます。釣った後に日数をかけて熟成させたものも美味しいですが、プリプリとした歯ごたえが味わえる釣りたての魚介類もまた美味しいものです。グルメ漫画によくある表現ですが、美味しい料理によって体に電流が走ったり、服がはじけ飛んだ(ように感じられた)りします。

釣り屋ナガレ 2巻 51ページ「マダコの刺身を味わう波夫」
マダコの刺身を味わう波夫(出典:釣り屋ナガレ 1巻 51ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)

女性キャラクターも上の波夫さんと似たような状況になりますが、規制を受けそうなので自粛しておきます。ただ料理が美味しいという描写だけでなく、「サバアレルギーの誤解」「寄生虫のアニサキス」など食材についての情報もあり、実際に釣った魚介類を食べるときに役立つ知識も多いです。

魅力その4:釣りの名言がいっぱい!

釣り屋ナガレには、釣りの醍醐味を語る名言がいっぱいです。作者の竹下先生ご自身が感じた釣りの魅力が、登場人物の口を通して時に熱く、時に静かに語られます。今回は数ある名言の中で、2つだけピックアップしてご紹介します。

名前も知らない人と助け合ったりすること

まずはこちら。10分で黒鯛を釣ってみせると宣言したのに、一人で最後まで釣りあげることができず、落ち込むナガレに対して広岡が言葉を掛けるシーンです。

釣り屋ナガレ 1巻 29ページ「一人で釣りきれなかったことを悔やむナガレ」
一人で釣りきれなかったことを悔やむナガレ(出典:釣り屋ナガレ 1巻 029ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)
釣り屋ナガレ 1巻 30ページ「広岡の言葉に納得するナガレ」
広岡の言葉に納得するナガレ(出典:釣り屋ナガレ 1巻 30ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)

ナガレ君のこの笑顔、プライスレスです。釣り場や釣り船で偶然となりあった、それこそもう二度と会わないかもしれない人と、たまたま一緒にいたから助け合う。一期一会の精神、素敵です。自分も似たような経験がたくさんあるのでとても共感できました。

釣り人が喰いたいのは「魚だけ」ではない!

お次は豪徳寺潮会長の名言。これは、釣り人のほぼ全員が共感できる内容かと思います。 「魚を買った方が安いし楽じゃない?」と言われて「違うんだよ!」と思った人は多いはず。釣り人の気持ちを理解せず、魚で機嫌を取ろうとする親類一同に対して、潮会長は熱弁をふるいます。

釣り屋ナガレ 1巻 69ページ「釣ってきたと嘘をついた波夫に怒る潮」
釣ってきたと嘘をついた波夫に怒る潮(出典:釣り屋ナガレ 1巻 69ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)
釣り屋ナガレ 1巻 70ページ「釣りの醍醐味を語る潮」
釣りの醍醐味を語る潮(出典:釣り屋ナガレ 1巻 70ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)

釣り人の想いを体現した、本当に素晴らしい名言だと思います。ただ効率よく魚が獲りたいだけなら漁師になって網を投げるべきなのですが、釣りはそうじゃない、と。釣り場の開放感、五感を刺激する非日常的な環境、釣るための試行錯誤。そういった過程全てが楽しいのであって、魚を獲ること「だけ」が目的ではないのだと語っています。ここまで釣り人の精神に踏み込んで描いた作品も珍しく、ヘミングウェイ等の文学作品に通じるところがありますね。

まとめ

笑いあり感動ありの名作

釣り屋ナガレ 1巻 176ページ「海の雄大さ」
海の雄大さ(出典:釣り屋ナガレ 1巻 176ページ ©竹下けんじろう/秋田書店)

週刊連載作品とは思えないほど、絵・キャラクター設定・ストーリー構成ともに完成度が高く読み応えのある「釣り屋ナガレ」。釣りをする方にもそうでない方にもおすすめの作品です。

ただ、一つ注意点を挙げるとすれば、作品中では魚や孤児たちを通して「命の大切さ」をテーマの一つとして扱っているため重い話も多いです。見ていて辛くなるような描写もあり、釣り漫画としては賛否両論があります。しかし、作品の根底には「感謝」や「希望」を描いており、笑いあり感動ありの良いバランスに仕上がっていると思います。

コミックスで全11巻分となかなかの巻数を連載した「釣り屋ナガレ」。特別篇などの話を含めて大方の伏線は回収されましたが、ナガレの父の生涯についてなど、まだいくつかの謎が残ったままなので、またどこかの媒体で続きが読めることを期待しております。

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